唱和之式をやることになった
友人たちと唱和之式をやることになった。
唱和之式というのは裏千家茶道の稽古の一つの形である。表千家、裏千家の茶道には七事式という稽古の形がある。8帖の茶室で5名以上が同時に稽古をする形として江戸時代に考案されたものだ。七事式というだけあって、基本の形は7通りある。
が、その後多くのアレンジが加えられ、江戸時代末期以降はさらに数が増えていった。唱和之式は裏千家14代の無限斎の創案で、5名で行う。
その手順はまず最初に5つの花入に5名がそれぞれに花を入れていく。続いて亭主役がお香を焚いて残りの4名がその香を聞く。次はようやく濃茶。亭主役が濃茶を練り全員で服する。その後は薄茶。薄茶は七事式の一つである花月の形式で三服点てる。(つまり5人のうち薄茶がいただける人は3人だけ)。最後に自分が入れた花にちなんだ歌を短冊に書くのである。
これは大変なことになったものだ。花に香に濃茶・薄茶というだけでも大変なのに「歌を詠んで書く」。書くと言ったらもちろん毛筆に決まっている。
さすがに当日になってあたふたするのも気の毒だろうと、世話役の方が気を利かせてあらかじめ用意できそうな花の名前をメールで教えてくれた。以下がその茶花リストである。
・矢筈芒(やはずすすき)
・秋海棠(しゅうかいどう)
・高砂芙蓉(たかさごふよう)
・縞芦(しまあし)
・白木槿(しろむくげ)
・宗旦木槿(そうたんむくげ)
・吾亦紅(われもこう)
・女郎花(おみなえし)
つまり、当日までにこのどれかにちなんだ歌を作っておきなさい、というわけだが、歌なんて短歌や俳句はおろかカラオケボックスだって行かない私には縁がない。まして茶室で詠むのにふさわしい歌とはどういうものなのかとんと見当がつかない。が、これはやらねばなるまい。
とりあえず一つ作ってみた。
エアコンの風に揺れたる花すすき 今宵の月は東か西か
先週稽古に行った茶室で、床の間の芒が風に揺れていたのを思い出したのだ。そして芒といえばお月見である。が、なんだかすごく俗っぽい。
秋海棠西瓜の色に咲きにけり
やっぱり俳句の方が短くていい。でもこれは私の歌ではない。作者は松尾芭蕉様である。
香を聞いてお茶を飲むというのは唱和之式の手順そのまま。実にベタである。首をかしげるというのは花そのものと、短冊を書く私たちの姿を重ねているつもりである。が、そもそも秋桜(コスモス)なんて今回の茶花リストにない。でも、いざとなったら自分で持っていけばいいではないか。それに、何と言ってもこの歌は応用が利く。秋桜のところを変えればどんな花でもイケる、とロクデモナイことを思いつく。
私がウンウン悩んでいたら夫が
「赤いスイートピーを持っていけばいいよ、みんなきっと分かってくれるから」
と言い出した。
心の岸辺に咲いた赤いスイートピー
字余りだし、その上季節違いだ。という以前になぜ聖子ちゃん、そしてなぜまだこんな歌詞をスラスラと思い出せるのか。
にわか歌人は頭の中から世俗にまみれている。