sgotoの日々是好日

茶道と共に歩み考える日々を綴ります

初めてのお茶会、引率編

 初めてお茶会に行く。お茶を習っていれば誰もが通る道だ。私が初めてお茶会というものに出席したのはいつのことだっただろう?覚えていないところをみると、お茶会に客として行くよりも先に、師匠が主催する茶会でいきなりお点前デビューしたのが最初だったのかもしれない。

 そんなことをふと思い出したのは、先日社中の皆様と一緒にお茶会に出かけたからだ。

 「社中」といっても大層なものではない。私と夫が教えている方々はお茶の稽古を初めて三年以内の初心者ばかりである。日頃は滅多に茶会に誘うことはしないのだが、裏千家の青年部が薄茶のお席を持つと聞いたので思い切って声をかけてみた。

 青年部というのは裏千家を習う若い人たち(年齢の上限は五十歳)の団体である。自分たちで企画を立ててお道具づくり(棗の絵付けや茶杓削りなど)、観劇(能や狂言や歌舞伎など)、勉強会など様々な行事を行っている。

 今回の茶会も青年部活動の一環だそうだが、先生方の手厚いサポート付きだ。この茶会になら初心者を連れて行っても安心、と私も容易に想像がついた。

 「お茶会」という未知の世界に「行ってみたいと思いませんか」という井上陽水ばりの私の誘いを皆様がどう思ったかはわからない。「行きます!」と即答した方が四名。その後追加で三名の方が「先生、まだ申し込めるなら私も行きたいです!」と真剣なまなざしと意気込みで迫ってきたのでびっくりした。

 「洋服で行ってもいいのでしょうか?その場合どんな服装がいいですか?」

 「持ち物は?、何か注意しておいた方がいいことはありますか?」

 「待ち合わせはどうしますか?」

 初めて茶会に参加する皆さんからは次つぎに質問が寄せられた。

 

 そこで、このお茶会は洋服で参加して良いこと。服装は膝丈より長めのスカートまたはワンピースで清潔な装いがふさわしいこと。畳のお部屋では白の靴下を着用すること。お稽古で使っている帛紗・懐紙・菓子楊枝・扇子のセットを持参すること。コートやバッグをまとめて預けるために風呂敷が必須であること、当日は駅で待ち合わせて皆で茶会の会場に伺うことなどなど「客の心得」を説明した。

 さて、お茶会当日。私と夫を含め総勢九名の団体でぞろぞろと会場に向かった。団体客というのは参加者の多い茶会では扱いが難しいものなので「ご迷惑でなければ良いけれど」と若干の不安を抱いてはいたが、受付でお会いしたY先生から「いやぁ、よく来たよく来た。お茶券いっぱい買ってくれてありがとうね!」とお声をかけられてほっとする。

 広間の薄茶席では青年部部長のSさんがお席主で、青年部員の皆様がお運びをしてくださった。お点前をされた方はこれが「お茶会でのお点前デビュー」だったそうだが、いやいやどうして美しいお点前だった。一通りお席が終わると同行した皆様がそろって「先生、たばこ盆ってどうやって拝見するんですか?」と言い出したのには参った。稽古ではたばこ盆は出さないので皆の興味を惹いたのだろう。

 二席目は青年部をサポートしてくださる先生方のお席で、御園棚を使った立礼席。華やかなお道具組、美しい干菓子、穏やかで楽しい席主と正客のやりとり、とてもリラックスした良い雰囲気だったと私は感じた。が、そういえば稽古ではまだ一度も立礼はやっていない。これも一度お稽古しておかなければなぁなどと思う。

 最後は点心席。お弁当とペットボトルのお茶がだされた。食事が始まってようやく同行の皆様の感想を伺うことができたが「とても楽しかった」「お道具がとても綺麗だった」と皆様が目を輝かせて口々におっしゃっていた。初めてのお茶会経験が概ね好評だったことにほっとする。

 「実は二週間前からずっと緊張していたのですが、終わってみるとあっという間でした。もっと色々なところを見ておけば良かったなぁと思います」と話してくれた人もいた。

 ああ、そうだったのか。それほど緊張していたのか。茶会で出されたもの全部を見ることは難しい。どんな道具を出されたかなんて覚えられない。私自身もずっとそうだったことを思い出す。

 それでも、着物を着た方々が点前をし、お運びをしてくださる姿、亭主と正客のやりとり、お道具を見る連客の姿、そういうもの全部から作り出される茶席の雰囲気、それを全身でシャワーのように浴びてくれたのなら、それだけでも普段のお稽古だけでは得られない体験になったことだろう。

 点心席の出口には青年部の皆さんが作られたお道具類や帛紗ばさみなどが飾ってあったので、最後にそれを見ながら青年部の説明をした。興味を持ってくださった方があったので、「茶杓削りも、お茶会のお運びも、自分一人でやりたいと思ってもすぐにできることではないけれど、青年部に入っていればチャンスはありますよ」と説明しておいた。何名かは青年部の入会申込書を持ちかえった。

 誰か一人でも青年部に入ってくれれば、私も「親先生」(青年部員の師匠のことをそう呼ぶ)の仲間入りだ。青年部は私のお茶のルーツの一つ。時が巡り、立場は変わっても、もう一度青年部に関わることができるのだとしたらこんな嬉しいことはない。

 かつて私が歩んだことのある道を彼女たちがどう歩むのかはわからないけれど、私自身はかつて師匠が何を考え、私たち弟子のことをどう思っていたのか、それを追体験する日々である。